微細塗布:半導体からお寿司まで
はじめに
「液剤の微細塗布」という言葉は、一般的に医療機器の組み立てやバッテリー製造などのアプリケーションを連想させます。寿司を思い浮かべることはまずないと思います。しかし、 IHIエアロスペースと山形大学のエンジニアの手にかかれば、3Dプリンターで作られたお寿司が 地球低軌道を周回する宇宙旅行者に振舞われることも不可能ではないのです。
そう、食品プリントの寿司です。IHIエアロスペースは、民間人の宇宙旅行を可能にする商業用宇宙プラットフォームの開発に携わっています。IHIエアロスペースは既に、食事を含むあらゆるレベルにおける宇宙体験の充実を視野に入れています。
宇宙で寿司を食べられるようにするためには、質量が1グラムでも増えればその分高いコストがかかるため、IHIは専門のシェフや鋭利なナイフ、魚介類の入ったクーラーではないものに目を向ける必要がありました。解決策は、軽量カウンタートップ型マイクロディスペンサーで寿司を印刷することでした。 ノードソンEFDのPICO Pμlseピエゾバルブテクノロジーをコンパクトなロボットと統合することで、研究グループは近所の寿司屋に匹敵するような寿司を印刷できる、精密な微細塗布システムを完成させました(図 1 参照)。
寿司と宇宙
宇宙飛行のスリルを求める冒険家たちは、最初から最後まで忘れられない体験を期待するでしょう。普通のサンドイッチではなく、もっとエキゾチックなものを求めているはずです。IHIエアロスペースは、創造的な可能性を追求するため、航空宇宙工学に強いだけでなく、料理芸術の分野でも定評のある山形大学に連絡を取りました。ブレーンストーミングの結果、宇宙で寿司を提供するというコンセプトが生まれました。ただ問題は、どう提供するか、でした。
寿司は日本料理の真髄とも言えます。失敗を隠すような長い食材のリストも、トリッキーな調理技術も使いません。新鮮な食材、バランスの取れた味、美しい盛り付けなど、至ってシンプルであることが重要なのです。そのシンプルさゆえに、特に宇宙での調理を成功させるのは非常に難しいことでした。
山形大学の研究チームは、料理と食材の両方の課題に対応する戦略的な決断として、固形の魚介類ではなく、 ペースト状のタンパク質を選びました。ウニや他の魚のペーストは、日本や世界の多くの地域でも一般的な食品として使われています。したがって“ウニ のペーストを使ったお寿司“というコンセプトは多くの人になじみがあると考えたのです。
ペースト状であることは、品質管理と物流の両面においてメリットがあると言えます。タンパク質は味のピーク時に採取され、パッキングされます。特にウニは、固形のままだと1~2日でバター風味のおいしい味から、ぬるぬるした苦いものへと、すぐに劣化してしまいます。パック詰めされたペーストは保存が効き、臭いを発生させる生ゴミが残ることもありません。
タンパク質のペーストは、非接触式微細塗布ディスペンサー技術にも適合しており、寿司の調理を自動化することが可能です。コンパクトなロボットと一体化された適切な液剤ディスペンサーは、ウニの外観を模倣した方法でペーストを付着させることができます。この装置は調理場に設置することができ、ボタンを押すだけで様々な種類の寿司を作ることができます(図2参照)。
課題
フードプリントでできた寿司の開発は革新的なコンセプトでありながら、多くの課題もありました。このアプリケーションでは、シャリの上に一定量のウニペーストを特定の形状で決まった位置に塗布する必要がありました。ウニペーストは高粘度の液体であるため、吐出には十分な圧力制御が必要です。また、 ノズルは、詰まりを防ぐために十分な幅も必要でした。さらに、仮に詰まりが発生した場合、ノズルが洗浄可能な仕様である必要もありました。
料理の観点からは、洗浄の問題とは別の課題がありました。プログラムの目標は、ウニ、白身魚、カニ、エビの4種類のペースト状のプリント寿司を製造するシステムを作ることでした。そのため味を残すことなく、1種類から別の食材に切り替えられるシステムが必要でした。
これらの課題に取り組み、プロトタイプを製作するため、山形大学のチームはノードソンEFD(日本)にプロジェクトを依頼しました。
ソリューション
IHI/山形大学の設計チームから連絡を受けたノードソンEFDのアプリケーション・エンジニアは、そのユニークな採用ケースに驚くとともに、非常に関心を抱きました。吐出するものは寿司という一風変わったものではありましたが、ノードソンに課せられたタスクは、正確な量の液剤を指定された速度で確実に吐出するという、通常と変わらないことでした。
ノードソンEFDチームがソリューションを開発する方法も同じでした。それは、顧客と相談して要件を絞り込み、課題を特定して対処し、システムを構築し、正確で信頼できる性能を確保するためのテストを行うことでした。
理想的なのは、シャリの形状を壊すことなくウニペーストを吐出させることです。そのためには、ジェットバルブが必要でした。ノードソンEFDチームは、ノードソンEFDPICO Pμlseジェットバルブシステムを推奨しました。このシステムはピエゾアクチュエーターを使用し、非常に粘度の高い液剤でも、スムーズで正確な非接触のジェッティング塗布を実現します。
ピエゾバルブは非常に高分解能で信頼性が高く、長寿命です。これらの特性により、ユーザーはストロークの長さを調整することで、吐出量の正確な制御が可能となります。この特性により、PICO Pμlseジェットバルブは、異なる組成の寿司ペーストの均一な外観を達成するために、成膜を最適化することができます。操作面では、ピエゾバルブは長寿命と高信頼性という利点を提供します。
さらに、PICO Pμlseはモジュラー設計のため柔軟性が高く、用途ごとに最適な構成を都度組むことが可能です。液剤ボディは工具不要のラッチ方式で、迅速かつ容易に交換できるためプロトタイプの段階でも、生産が本稼動してからも非常に便利です。液剤を送り出す部品を素早く交換できるため、バルブはさまざまな種類のペーストを吐出しつつ、洗浄しやすいという目的を果たすことができます。
IHI エアロスペース/山形大学 チームは、PICO Pμlse バルブとノードソン EFD PICO Touch バルブコントローラーおよび液剤リザーバーを組み合わせ、統合の容易さと正確で信頼性の高い操作を両立させたエンドツーエンドのソリューションを実現しました。
次のステップは、ペーストを扱うのに最適なノズルを選ぶことでした。ノードソンEFDは、300ミクロンのオリフィスを持つフラットノズルを推奨しました。このノズルは開口部が十分に広く、詰まりのリスクを最小限に抑えながら、ペーストをスムーズに制御して塗布することができます。このノズルは、粘着性のある液剤に使われる特殊な親水性コーティングが施されています。このことにより、接液経路の表面張力が低下し、微細塗布の安定性が向上しました。
システム構成が確定した後、次のステップは、ノードソンEFDの専用ラボ設備でソリューションを評価することでした。ノードソンのチームはテストベッドを組み立て、正確で信頼性の高い動作を確保するため、さまざまな条件下でテストを行いました。
結果
IHIエアロスペース、山形大学、ノードソンEFD(日本)の合同チームは、寿司を3Dプリントできる自動塗布システムのプロトタイプ機を完成しました。3Dプリントされた寿司は芸術的な仕上がりで、何度繰り返し塗布しても安定した仕上がりになりました(図3参照)。PICOピエゾ式塗布システムの信頼性は非常に高く、山形大学チームは日本の大規模な展示会でデモンストレーションを行い、来場した有名人に試食してもらう機会もありました。
宇宙での食事用に3Dプリントされた寿司は、確かに特殊なケースとなりますが、一般的なフードプリントとしては、もっと広い範囲に応用できる可能性があります。山形大学の研究チームは、例えば病院、老人ホーム、介護施設などでの食事にこの技術を応用すべく研究を続けています。
結論
PICO Pulseジェットバルブは、寿司をプリントするという特別な用途に取り組みましたが、それはその機能の一部を活用したにすぎません。 この微細塗布システムは、高い精度と再現性、そして優れた汎用性を兼ね備えており、標準的な工業用アプリケーションだけでなく、多くの用途に高い効果を発揮することができます。
お客様のアプリケーションにおけるお困りごとについて、ご相談ください。私たちは、お客様のニーズを満たし、将来的な成功につながるシステムを開発し、徹底的にテストして、条件を満たすよう技術を追究します。
私たちはお寿司をプリントするシステムを開発しました。お客様のために、私たちはなにができるでしょうか?想像してみてください。
よくある質問
微細液剤塗布とは?
微細液剤塗布とは、ミクロンまたはナノリットルの正確な量の液剤を基材に塗布する製造プロセスです。これらの液剤は、標準的なオイル、シーラント、接着剤から高性能なアッセンブリー液まで多岐にわたります。これらの液剤を正確かつ一定量塗布することは、事実上あらゆる製造工程で使用されています。ノードソンEFDの技術がどのように精密な 液剤 塗布業界に貢献しているかについては、こちらをクリックしてください。
ジェットバルブとは?
ジェットバルブは、非接触で液剤を吐出する技術であり、凹凸のある表面や手の届きにくい表面など、あらゆる表面に液剤を正確に塗布することができます。ジェットバルブは、ピエゾ技術や空気圧技術により、高速で少量の液剤を極めて高い精度と再現性で吐出することができます。ノードソンEFDがジェットバルブ市場にどのように貢献しているかについては、こちらをクリックしてください。
タンパク質ペーストとは何ですか?
タンパク質ペーストは、消費者が従来の賞味期限を過ぎても長く保存できるような形で、様々な形態でタンパク質を提供できる保存安定性のある方法です。 プリント可能な寿司用途の場合、このペーストは固形の魚介類で構成されています。
ペーストは品質と物流の両面でメリットがあります。タンパク質は風味のピーク時に保管され、パッキングされます。パック詰めされたペーストは保存がきき、臭いを発生させる食品廃棄物が残りません。
3Dフードプリンティングとは?
3Dフードプリンティングとは、自動化された3Dプリントプロセスを活用して食品を作成する工法です。一般的に、3Dプリント食品は、あらかじめ決められた形状の層ごとに作られます。3Dプリント食品は多くの場合、ペースト状またはマッシュ状の食品で構成されています。通常、これらのペーストやマッシュはキャニスターに入れて、プリンターに投入されています。
3Dプリント可能な寿司アプリケーションを開発したパートナーシップとは?
この3Dプリント可能な寿司アプリケーションを共同開発したのは、IHIエアロスペース、山形大学、ノードソンEFDです。
ムゲ・デニズ・メイラー
Muge Deniz Meillerは、ノードソンEFDのグローバルマーケットデベロップメントマネージャーです。 彼女は、ライフサイエンス産業、特に医療診断マーケットにおけるEFDビジネスの機会創出と拡大にフォーカスしています。 Mugeは2018年にノードソンEFDに入社し、13年以上にわたる製品およびマーケットマネジメントの経験があります。最近の記事
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